そうだ、読書家を卒業しよう

 経済学に興味が湧いている。哲学はどうしたのだというかもしれないが、その一環である。世界の関係性を知り、論じるための一つの手段である。きっかけは髙橋洋一さんで、YouTubeを毎日見ていたら興味が湧いてきた。例のごとく本も買った。髙橋洋一『【図解】新・経済学入門』、サムエルソン『経済学』、ケインズ『雇用、利子および貨幣の一般理論』などである。一気に買ったのでまだ読めていない。本を買うだけで満足することもあるが、今回はちゃんと読んでいる。サムエルソンの『経済学』は教科書のようであるが、とても楽しく読んでいる。と言ってもまだ60ページほどであるので、これからである。ケインズは難しくて読めそうにない。経済の理論的な事柄を扱っており、馴染みのない用語がたくさん出てくる。そもそも経済学については何も知らないので、もう少し先に読むべきものであろう。

 哲学の研究としては日本語文法に取り組んでいたが、難航している。少し興味も薄れてきた。浅利誠の『日本思想と日本語』は、まわりくどくて同じことの繰り返しが多く感じて疲れてきた。まだまだ私の理解が浅いということであろう。金谷武洋の『日本語に主語はいらない』はポリコレ感が強くて抵抗を感じた。浅利誠氏の本に比べるとわかりやすく、趣旨を理解できるのだが、『日本語と西欧語』もそうであったが、政治的なことを述べ始めるとなんだか興醒めしてしまう。私の人間的な成長を待って、今後また深めていきたいと思っている。

 文章を書くことで人生の危機を乗り越えることができた。離婚や怠惰な生活から救ってくれたのは書くことである。だから言葉についての研究は続けてゆきたい。学校の日本語文法からわかる西欧中心主義の影響や本来の日本語の文法からわかるその世界観などを通じて、世界説明つまり哲学を進めてゆこう。

 しかし今最も影響を受けている髙橋洋一氏は、本は読まないそうだ。特に主義主張が書いてあるものはまったく読まない。だから金谷氏の本の私が嫌だと思った部分は、髙橋氏も読まないだろう。なぜ本を読まないのかという理由は、余計な情報に邪魔されずに自分の頭で考えたいからだそうだ。かっこいい理由である。では本を読まずに何をしているかというと、直接データを引っ張ってきて分析するのだそうだ。髙橋氏は東大の数学科を卒業していて、当時教授から言われたことは、「本を読む必要はない。論文を書け」だそうで、数学者は、世の中の本に書かれていないことを生み出していかなければならないので、本を読んでも意味がないのだそうだ。だから直接にデータを分析し、そこから得られるものを探すのである。

 今の私が求めているのはそういうことであった。本をたくさん読むことも楽しいが、自然や現象に直接に触れて、そこから真理を得るという行為を求めている。日本語文法や「もののあはれ」についても興味があるが、いまいち研究の方法つまりデータの分析の方法が確立できていない。そこが先に進めていない原因である。文法書や本居宣長の本を読むことがやっとで、直接文章を分析できていないのである。その方法を模索してゆく。よって経済学にうつつをぬかしている場合ではないが、興味が走り始めてしまうと止まらない。このように随筆に書き記し、忘れないようにして今後に活かしてゆこう。

 髙橋洋一氏の『髙橋洋一式デジタル仕事術』には、データ分析の方法が紹介されている。エクセルで散布図を作るというもので、そのうちの一つは「通貨増加率とインフレ率の散布図」である。これは二つのデータの相関性を探るもので、散布図を書き近似線を入れて、その数式の係数から相関性を測るというものである。データは「世界銀行」という国際機関のサイトから持ってきて、それを適切な形にしてグラフを書くのだ。もちろん初心者用の課題なので、これで世界がわかるというものではないが、髙橋氏の分析の一端を知ることができてとても参考になった。

 関係性の存在論を論じるために、私は哲学書を読み、似たようなことが論じられているところや違った主張を探してきたが、それだけではダメである。世界の関係性そのものを扱わなければならない。そもそも哲学書を読むだけでなく、自分でも哲学書を書きたい、自分の言葉で論じたいと目標を掲げてきたが、自分の研究方法が読むことしかなかったことはマヌケな話である。データ分析の手法を参考にして先に進むのである。

 研究方法に問題があるのだからそれを変えてみようと、その他の方法を検索してみたら頭の中が少し整理された。今回検索したものを紹介する。興味のない読者は読み飛ばしてもらったらよい。

  • 文献研究

特定のテーマに沿って過去の学術論文を整理・考察し、新たな論点や主張を提示する研究手法。文献研究は、研究論文を執筆する上で欠かせない重要な研究活動である。

文献研究の手法には、次のようなものがある。

・文献サーベイ:過去の学術論文を系統的に調べる手法。

・文献レビュー:先行研究で何が明らかにされているのかを説明し、自分の研究でどのような知見が追加されるかを述べる手法。

・文献検討論文:これまでに出版されている論文を整理し、テーマに関する研究の動向についてまとめた論文。

文献研究を行う際には、次のような点に注意。

・論文で参照する文献は直近5~6年以内のものであることが原則である。

・古い文献を参照するのは研究の動機や背景を提供するための補足資料程度にする。

・学術文献は研究の方法や精度はさまざまだから、絶対的に信用がおけるとは言い切れない。

  • 理論研究

哲学的な考え方や抽象的な理論構造を用いて、研究対象を考察し、議論する研究。研究対象を直接見ることはできず、研究文献などを参考に、研究対象の概念モデルや説明、構造を定義し、スケッチすることを目的としている。

理論研究では、次のようなことを行う。

・現実に存在する現象を解剖する。

・現象についての理解を深める。

・ものごとの理(因果関係等の関係性)を明らかにする。

・理論研究では、研究の理論的根拠(rationale of the study)を明確にする必要がある。これは、研究を行った理由や、研究を行うべき理由を示すもので、研究の必要性を説明するものである。

  • 事例報告

特定の事例に関する問題や課題を解決したり、業務改善や調査の結果を報告したりするもの。事例報告の目的は、問題や課題の解決策や対応策を探り、新たな視点や知見を得ること。また、医療や介護の質の向上に貢献することも目的としている。

事例報告の例としては、次のようなものがある。

・臨床において経験した症例を詳細にまとめたケースレポート(症例報告)。

・介護現場で直面する問題や課題を他者と共有する事例発表。

・治療・ケアの実践者の経験を学術集会や学会誌で発表する事例報告。

・事例報告では、問題発生から解決に向けた一連の流れを時間軸に沿って記載する。

  • 質的研究

インタビューや記録などの主観的なデータをもとに、対象者の心理や行動、感情、価値観などを分析する研究手法。数値化が難しい情報を収集・分析することで、対象者の社会的・文化的な解釈を深め、社会現象の背景を理解する。

質的研究の例としては、次のようなものがある。

・病棟の看護師に夜勤中の仮眠に関する満足度や業務への影響をインタビューする。

・新しい学習指導法の効果を調べるために、生徒の面談や授業の観察を行う。

質的研究の強みは、言語だけでなく、行動や表情などあらゆることをデータとして扱うことで現象を多面的に捉えられること。

質的研究の主な手法には、次のようなものがある。

インタビュー、フォーカス・グループ・ディスカッション、参与観察、内容分析、エスノグラフィー、グラウンデッド・セオリー、現象学、ケーススタディ。

  • 量的研究

研究対象を数値化して統計的に分析し、理論や仮説を検証する研究手法。科学的な手法として広く活用されており、結果の信頼性が高いとされている。

量的研究の具体例としては、次のようなものがある。

・マーケティングリサーチにおける認知度や購買量、顧客満足度などの調査。

・医療における新しい薬の効果を測定する研究。

・社会調査におけるアンケート調査などによる社会現象の分析。

量的研究のメリットは、数的データに基づいて客観的な解釈ができること。一方、データが少ないと判断や分析ができないというデメリットもある。

  • 混合研究

量的・質的研究のデータを収集・分析・統合する研究方法論。社会科学や行動科学、看護、家庭医学、社会福祉、公衆衛生、ビジネス、マーケティングなどの分野で用いられている。混合研究では、質的・量的なデータの両方の長所を組み合わせることで、研究対象をより包括的に理解することができる。

混合研究のメリットには、次のようなものがある。

・統合データを比較することで、より明確な結果が得られる。

・量的結果と質的結果の矛盾を解明できる。

・参加者の見解を反映できる。

・課題をより詳細に調査できる。

一方、混合研究には、次のようなデメリットもある。

・扱うデータが多岐に渡る。

・質的・量的データの統合が複雑である。

・どちらか一方の研究方法を用いた研究と比較して、より膨大な時間を要する。

  • 尺度研究

何かを測定するための尺度を開発する研究。尺度は、得られたデータを分類するときの基準として用いられる。

尺度研究では、次のような尺度が開発される。

・心理尺度:人の心理や意識、行動傾向などの抽象的な概念を定量化するために用いられる尺度。

・評価尺度:特定の機能や製品、サービスの比較形式で回答者のフィードバックを表すために用いられる尺度。

・対象関係尺度:個人の対象関係を分析的・多面的に評価することを目的とした尺度。

尺度は、名義尺度、順序尺度、間隔尺度、比例尺度の4つの尺度水準に分けられる。

 このようにさまざまな研究の方法を改めて見ていると、私が研究だと思っていたことがただの趣味であったことがよくわかる。哲学書を書くという目標は良いが、それが何を課題とし、どのような方法で一般に説明するのかが明確になっていない。指導者が欲しいものである。オンラインサロンで質問ができる髙橋洋一氏は、しいて言えば指導者である。質問の答えに心が折れそうになるが、しっかり受け止めて前に進もうと思う。

 しかし、読書は娯楽でもある。先日の誕生日に長男が瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』をプレゼントしてくれた。母との死別、父の再婚、海外赴任などさまざまな出来事から育ての親が次々と変わる女の子の物語である。久しぶりに小説を読んで、本を読むことの楽しさを再確認した。それがきっかけとなって以前から興味のあったドストエフスキーの『カラマーゾフ兄弟』を買ってみた。まだはじめの方を読んでいるがとても面白い。仕事の疲れを癒してくれる。このように本を読むことは楽しいわけであるが、さらに本を買うことも楽しい。経済学に興味を持ったら、その関連の本を調べて買う。古本屋で見つけた全集を買う。そして読んでみて面白かったらこれもまた楽しいことである。本は研究の道具でもあり、私にとっては癒しでもあるのだ。そのあたりの線引きがうまくいっていないので、しっかりと分けてゆこうと思う。書棚を分けたり、時間を区切ったり、ノートを作ってみたり、方法はたくさんあるだろう。

 忙しい正月も過ぎて、本をゆっくり読む時間もできるだろう。そしたら研究のための読書と娯楽のための読書の時間も作ろう。また一次資料としてのデータに向き合い、検索した研究方法を参考にしながら歩みを進めよう。

 ではここで、サムエルソン『経済学』を読んで印象的だったものをいくつか紹介する。まずは「見えざる手」である。市場経済において個人が自己利益を追求すると、社会全体で適切な資源配分がなされ、社会の繁栄につながるという考え方である。これはアダム・スミスが用いた言葉で、大変有名である。サムエルソンは「どのような経済も三つの基本的な経済問題をなんとか解決しなければならぬ。」と述べ、その三つを「何を、いかに、誰のために」と表現した。「すべての生産可能な財やサービスのうち、質・量いずれにかんしても、<何を>生産すべきかという問題」と「これらの財を生産するのに、経済的資源を<いかに>組み合わせて使用すべきかという問題」と「これらの財は<誰のために>生産されるべきであるかという問題」である。つまりは市場の安定ということである。あるものの値が高過ぎたり、低過ぎたり、量が多過ぎたり、少な過ぎたり、というような不均衡を避けるためには、「見えざる手」が働かねばならないということである。具体的には需要と供給のバランスであり、それは「投票場で2年に1回というような方法によってではなく、あれではなくこれを買うという彼らの毎日の決定によってである」。つまり政府が一括して価格や量を決めるのではなく、意識的でない自動的な市場の価格制度がこれらを決めることによって安定するというものである。

 この「見えざる手」は、資本主義社会の自由競争をたたえる考え方であるが、1929年に始まる世界恐慌では、「見えざる手」が働かなくなることがあることを示されたようだ。原因は、生産過剰、投機バブルの崩壊、保護貿易主義、金本位制の継続、などがあるそうで、複雑な関係性が興味深い。自然的な均衡の力にただ任せればよいというわけでなく、意識的な政府の関与をどの程度にするかという問題がある。これは経済だけでなく、例えば植物や子供を育てること、また組織の作り方など適応範囲が広いのではないだろうか。植物も環境を整えさえすればあとは放っておくのがよいこともあれば、完全に管理をしてしまう方が安定することもある。子供についても同様であろうか。しかし100%コントロールできることはなく、そこに現実の複雑さが表れている。また完全にコントロールされて生産された野菜などの栄養価が、放って置かれたものに比べて低いというような現象も、どのように管理するのが最もよいことなのかを考えさせられるのである。理性を優先させる西欧的な文化か、自然を優先させる日本的な文化か、などの対立的な思想を想起させる問題であるが、そのように抽象化して単純化させずに、具体的に対応をしてゆきたい。

 次は「リニア・プログラミング」というもので、企業経営における生産や輸送、経済計画などを最適化する数学的方法である。次の例題が掲載されていた。

 「いまかりにミルクと豆と肉との各1単位が、その順序に並べて(1,8,2)単位のカロリーをもち、(4,2,1)単位のビタミンをもち、さらにそれぞれが(1,2,3,)ドルで買えるとする。ところで、あなたが一ヶ月あたり少なくとも120単位のカロリーと180単位のビタミンを購入しなければならぬとし、しかもそれを出来るだけ安くあげようとしたら、どういう組み合わせの買い方になるであろうか。」

 この問いに答えるにはどうしたらよいかと思いを巡らせた時、髙橋洋一さんを思い描いた。数字のこととなると、髙橋さんならどうするかと想像してしまうのだ。おそらく髙橋さんなら「こんなの簡単でエクセルでもできるよ」とおっしゃりそうなので、アイデアもないままエクセルを開いたのだ。そして思いつくままに作った表が「表1」である。

 行には「ミルク、豆、肉、合計、目標」と記し、列には「単位(購入する単位)、カロリー(左には基本の数値、右には購入単位に応じた数値、以下同じ)、ビタミン、価格」を記した。そして各購入の単位を入力すれば、それに応じた数値が出るように式を挿入したのである。

 表1は金額が最小になるパターンで、ミルクを40、豆を10、肉を0という組み合わせだ。

 次の「表2」は肉を10単位購入した場合のものである。肉を購入して価格を抑えようとすると、先ほどとはバランスが変わる。ミルクと豆はそれぞれビタミンとカロリーが突出しているので、それらを減らした分を肉で賄うことができないので、苦戦する。

 このように全体の均衡を考えながら、個々の数値を設定することは苦労を伴うが、ゲームのようで面白くもある。リニア・プログラミングの本来は、一次式を作り、グラフにして考えてゆくようであるが、現在の私にはそれはできないので、エクセルの表計算で、半ばマニュアル的に調整をしたのである。しかし頭の中で計算したり、手書きでやるよりも分かりやすく簡単であった。経済学のおかげというよりは髙橋氏のおかげ、またはエクセルのおかげであるが、実際にデータに触れながら、物事を考えることができた。哲学的などという大袈裟なものではないが、分析の方法としてまた仕事の効率化の一助として有効である。

 最後にニュースをエクセルで考えてみた。「石破政権の目玉政策『最低賃金1500円以上』…企業の半数『実現不可能』 財界も賛否両論真っ二つの事態」(Yahooニュース令和7年1月7日)というニュースを実際に計算してみた。これは現在1,055円の最低賃金を2020年代に1,500円まで引き上げるという石破政権の政権公約についてさまざまな意見があるというもので、この数値が具体的にどういうものであるかというのを計算しようと試みたのである。

 表3は、厚生労働省が発表している2015年から2023年までの最低賃金の引き上げ率の推移である。最下部には引き上げ率の平均を記した。2020年はコロナがあったために引き上げはほとんど行われていないことを鑑みて、除外したとしても3.17125と3%を少し上回るぐらいである。この数字から、もしかりに近年平均を上回る4%の引き上げ率で2029年まで上げてゆけばどうなるのかと計算したのが次の表4である。

 毎年4%ずつ引き上げてゆくと、2029年には1,284円である。これでは足りないので、8%にしてみたのが表5である。

 これでようやく1,550円ということで、達成できた。よってこの公約を達成するには平均で8%弱の引き上げが必要なことがわかった。ちなみに過去最高の引き上げ率は5%だそうだ。今回石破政権が公約として掲げた最低賃金を2020年代までに1,500円にするということが、どういうことかがよくわかって面白かった。

 髙橋洋一氏も同様の計算をしている。平均引き上げ率は7.4%まで上げたら達成できるとし、過去の最高引き上げ率は6.9%としていた。平均の引き上げ率はほぼ同じであったが、最高の引き上げ率の資料がなかったので、私はNHKのニュースの記述を参考にした。記事の中にも「毎年約7%台ずつの賃上げ」と書いてあるので、自分で計算する必要はなかったが、4%ならどうかとか、引き上げ率の推移を省庁のデータから引っ張ってくることなど、作業自体が楽しかった。

 経済学に興味を持ったというより髙橋洋一さんに感化されたというのが具体的で正しいのが、今の私の状態だ。思いつくままに本を読んで得意になっている状態から、もう少し社会的に役に立つ状態へ向かっている。この際、読書家を卒業しようと思う。ただ本を読んで楽しんでいるだけの読書家を卒業して、哲学者として意味のある存在になろうと思う。予定では今年の4月19日に哲学書の初稿を完成させるつもりだ。どんなものができるか楽しみである。

令和7年1月19日

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