有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし

百人一首

有明(ありあけ)の つれなく見えし 別れより 暁(あかつき)ばかり 憂(う)きものはなし
壬生忠岑(みぶのただみね)

百人一首の30番目の歌です。

語句

*有明(ありあけ)の・・・陰暦で16日以後、およそ二十夜以降の、明け方まで空に残っている月のこと。あるいは、空に月が残ったまま夜が明けることを表す。
*つれなく見えし・・・「つれなく」は形容詞「つれなし」の連用形で「冷淡だ・無情だ・平気だ」などの意。
「し」は体験回想を表す過去の助動詞「き」の連体形で、過去の女との別れを回想している。
また、月のつれなさと別れた女のつれなさを重ねている。
*別れより・・・「より」は時間の起点を表す格助詞であり、「その時から、〜の時から」という意味になり、現在までの時間の経過を表す。
後朝(きぬぎぬ)の別れ、つまり共寝をして帰る朝の別れか、女性にふられて何もできなかった朝の別れを表している。
*暁(あかつき)ばかり・・・「暁(あかつき)」は「明時(あかとき)」が転じた言葉で、夜明け前のまだ暗いうちのこと。
「ばかり」は後の「なし」と合わせて、「~ほど、~なものはない」の意。
「暁、曙(あけぼの)」>「東雲(しののめ)」>「朝ぼらけ」の順番で明るくなってゆく。
*憂(う)きものはなし・・・「憂き」は形容詞「憂し」の連体形、「つらい、憂鬱な」の意。

歌意

有明の月は冷ややかでつれなく見えた。冷たく薄情に思えた別れの時から、私には夜明け前の暁ほど辛くて憂鬱に感じる時はないのだ。

作者

壬生忠岑(みぶのただみね)
9世紀後半から10世紀前半。「古今集」の撰者の一人であり、三十六歌仙の一人でもある。
役人としての評価よりも、歌人としての評価の方が高い。
百人一首41番の作者、壬生忠見(みぶのただみ)の父親である。

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