中書企業診断士

 中小企業診断士の資格の勉強に夢中である。入門書を買ってその気になったので、本格的なテキストを買った。また勉強することと本が増えたのである。哲学書を書くために哲学書を読んでいたが、具体的事象の研究なしに哲学はないと経済学に手を出した。そしたらなぜか中小企業診断士にたどり着いたのである。これは道草かもしくは真っ直ぐに哲学書の完成に向かっているのか、自分でもわからない。絵に描いたような順調な道はあり得ないだろうから、まあいいだろう。

 経緯を自分で整理してみたい。まずは離婚をして飲んだくれていた。しかしこれではいけないとモーニングページを始めて、酒をやめたのだ。そしたら文章を書くことが楽しくなってきたので、随筆として毎月書き記すようになった。哲学的な内容が増えてきたので自分の哲学書を書くことを決意した。決意したがそんなに順調には進まずモタモタしていたところに、髙橋洋一さんに影響を受けて経済学に興味を持ったのである。哲学書といっても具体的な事象にあたらないと書けないと経済学を勉強した。しかしいろんな興味や要請があって、中小企業診断士という資格を知る。入門書を買ってみたら面白かったのだ。経済学はもちろんそのほかのことも関係していて、一石二鳥以上の効果があると思った。

 中小企業診断士とは、主に経営コンサルタントに関わる国家資格である。この資格を持っていると、転職や副業、独立などに有利であるという。なかなか試験も難しいらしく、合格率は5%であり、資格の難易度としてはトップクラスだ。こんな立派な資格に興味を持ってしまったのは、いくつかの理由がある。

 まずは知りたいことが詰まっていたことだ。中小企業診断士の試験は2次試験まである。1次試験では7科目のマークシート式の試験、2次試験は筆記試験と口述試験がある。この1次試験の7科目が魅力的であった。

  • 企業経営理論

経営戦略、組織論、マーケティングなどを扱う。

  • 財務・会計

企業の経営状況を把握するための財務諸表の作成や、その数値を用いた管理活動、経営分析などをする。

  • 運営管理

我が国のGDPの約2割をしめる基幹産業である製造業に必要な生産管理と、一般生活者にとって最も身近な小売業の店舗・販売管理を扱う。

  • 経済学・経済政策

企業の内部環境だけでなく、外部環境を正しく捉えるためにミクロ・マクロ経済を扱う。

  • 経営情報システム

情報通信技術に関する基礎的知識および経営情報管理を扱う。具体的にはインターネットやパソコン、スマートフォンなどの情報機器やその情報システムの管理。

  • 経営法務

企業経営に関わる体系的な法律知識を身につける。

  • 中小企業経営・中小企業政策

中小企業庁から発行される「中小企業白書」や「小規模白書」、および中小企業に関わる国の政策についての知識を習得する。

 「企業経営理論」は、経営戦略、組織論、マーケティングなどを扱うが、これらのことはビジネス書を読んでいたときに少し親しんでいた。SWOT分析やVRIO分析、組織構造のさまざまな形態について、またマーケティングにおける市場の細分化や市場ポジショニングの知覚マップなどは興味を持って、自分の仕事の中でも試してみたりしていた。私の仕事は神主なので、そんなに多くを必要とはしないが、経営に関わってゆくなかではすぐに役に立つような事柄が多いので、企業経営理論を勉強することは楽しみである。また経営戦略は、大きく「企業戦略」という全社的な戦略、「事業戦略」という特定の事業分野においての戦略、「機能戦略」という購買、生産、営業などの各機能の生産性を高めることに焦点をあてた戦略に分類される。このように全体的な戦略から細分化された戦略まである構造は、ノート術にハマっていた時のアウトライナーを思い出す。アウトライナーとは、見出しを作り、その下に小見出しを作って階層を形成していき、必要に応じてそれらを並び替え、各領域の情報を整理したりすることができる文章作成ソフトである。頭の中のバラバラな考えやさまざまな本からの引用をまとめたりするときに便利な物である。ちょうどそれと同じように、企業戦略を階層に分けていき、各分野ではそれぞれの目標を追求することに専念しているだけではあるが、全体としては大きな目標に向かうことができるような上層部と下層部の調和的な構造を考えることは、私にとっては興味の尽きない分野である。私が奉職している神社は規模が小さいので組織を細かく分けてゆくことはできないが、仕事の種類は、日常の祭祀やお祓い、お守りの授与や境内の清掃、また駐車場や出入り業者との契約内容の管理など多岐に渡る。それぞれの仕事に専念しているときには大きな目的を忘れてしまうことが多い。しかし今目の前にある仕事を俯瞰してみたとき、これらの細かな仕事は全て厳粛な祭祀と神社の維持管理のためにある。そして神社を守ることは日本の文化の重要な側面を守り後世に伝えてゆくことでもあるのだ。そのことに気がつくことができるのは、意欲も増すし、目の前の仕事の重要性の再確認にもなる。このように階層的な戦略を眺めていると、日々のちょっとしたことにも意義を感じることができるから好きなのだ。

 「財務・会計」については、以前に簿記の資格を取ろうと思ったことがあったので少し触れたことがある。仕事でも個人でもお金に関することはとても重要である。私は神社の後継ではないので、老後のことが心配だ。神主といえども役職がついていなければ一般的な年齢で退職を迎える。宮司や禰宜などのいわゆる偉いさんになっていれば、退職の年齢はもう少しあとになるが、ヒラヒラのヒラ神主として60歳で退職を迎えたとすると、その後の仕事が大変だ。神主はツブシがきかない。他の業種で役に立つようなスキルは何もないのである。そんな状況に危機感を感じて、一番汎用性がありそうな簿記に注目したのだ。取引の内容をわかりやすく分類するための勘定項目はあまり覚えていないが、簿記の構造はそれなりに理解しており、私の家計簿は複式である。

 「運営管理」は、日々の仕事と関連がある。これは主に製造業の生産管理や、小売業の店鋪・販売管理についての科目で、神社と直接的には関係がなさそうに見えるが、生産の合理化の「3S」や職場管理の「5S」、在庫管理の「ABC分析」、店舗の照明や「インストアマーチャンダイジング」、利用者の動線、店舗施設に関する法律知識など、どんな職種でも関わりのあるような事柄を扱っている。職場管理の「5S」は、「整理、整頓、清掃、清潔、しつけ」のローマ字の頭文字をとったもので、神社の仕事にも欠かせない。必要なものと不必要なものを区別し不必要なものを捨てる(整理)、必要なものを必要なときにすぐに使用できるように決められた場所に準備しておく(整頓)。必要なものについた異物を除去しきれいな状態にし(清掃)、整理、整頓、清掃が繰り返され汚れのない状態を維持する(清潔)。そしてそれらの決められたことを必ず守り習慣づける(しつけ)。神社では整理、整頓そして清掃は徹底される。清浄を旨として日々の仕事は行われるのだ。だから大変馴染み深いしその効果も身をもって感じている。また、在庫管理などは整然とした環境を保ちながらも、必要なものを必要なときに使用できるように、計画的に進めていかねばならない。大変役に立ちそうである。

 「経済学・経済政策」は、私にとっては哲学から道をそれることとなった原因の科目である。具体的に私たちの環境を分析できるこの学問は、抽象的な概念を目の前の現象に適応できる。髙橋洋一さんの影響が大きいわけであるが、定量的に物事を考えるところにも惹かれている。たとえば需要や供給を数字に表しグラフを作っていき、それらが交わる仕方で社会を分析し捉えてゆくことは、複雑な世の中でどのように進んでいくべきかの指針になる。また日々の買い物などのミクロな経済における取捨選択が、マクロ経済の大きな全体にどのように影響を与えてゆくかを推測してゆくことは、全体と個を考える上では大変参考になる。ものを買い、ものを売るという日常的なこの行為が世界中で行われた場合、どのような関係性が生まれてゆくのかを見るのは、哲学的に存在を考える上でも重要なサンプルとなるのではないかと思った。この活動は日々止まらずまた境目も曖昧であるが、大まかな傾向がある。この大まかな傾向を静止的に捉えた場合に私たちは理解することができるのだが、捉えた瞬間にその対象は変化してゆく。なぜならそれらは物ではなく出来事であって、全ては過程なのである。このことを身近な例で感じ取ることができるのは楽しい。

 「経営情報システム」は、情報技術を中心とした科目だ。インターネットやパソコンは私たちの生活には欠かせないものとなっている。仕事の上でもそれらをどのように活用するかは大変に重要だ。神社という伝統的な職場においても、情報技術は欠かすことができない。参拝者の情報管理や広報など日常的にこれらを使用している。以前私は神社のホームページを作ったことがある。専門的な知識があったわけではないが、調べながらなんとか作ったのだ。それから情報システムには興味を持っている。また神社の事務はまだまだ紙媒体のものが多く、過去の資料からの検索に大変労力を使っている。いわゆるDXというデジタル技術の活用には期待しているところが大きいので、進んで学びたい科目である。

 「経営法務」は、文字通り経営にかかる法律を扱う。こちらは一番知識がない。株式会社と個人事業主の法的な諸条件などについて具体的には全く知らない。神社は宗教法人であるので、税制の優遇などについては知っているが、その他については関わりもなかった。これらの違いを知ることは重要なことであろう。また知的財産権や民法についてなども考えたこともなかったので、未知の世界として興味が湧いている。そして私が奉職している神社の職員の中には法律に詳しい者がいないので、必要とされるかもしれない。

 「中小企業経営・中小企業政策」は、中小企業庁から発行される「中小企業白書」や「小規模白書」、および中小企業に関わる国の政策についての知識を習得する。つまりは中小企業の動向や環境の変化、それらにまつわる国の政策を学ぶものだ。中小企業の定義は業種によって異なるが、大まかにいうと従業員が300名以下の企業をいう。その中小企業は、国内の企業全体の99.7%を占めている。ほとんど全部と言っていいほどが中小企業に分類される。この中小企業を知ることは、国内の企業を知ること、人々の暮らしを知ることにつながる。神主は神様と参拝者の中を取り持つ「中執持(なかとりもち)」である。神様についての知識が必要なのは当然だが、参拝者のことも知らねばならない。国は「中小企業支援法」を制定し、中小企業が抱える経営課題の解決や経営資源の円滑な確保のための的確な助言などが得られる体制を築いている。都道府県等中小企業支援センターや独立行政法人中小企業基盤整備機構などだ。中小企業診断士の根拠もこの法律にある。人々の暮らしを支援するためなのだ。私は神主として神様に仕えながらも参拝者の支援もできるこの資格に魅力を感じている。もちろんかくいう私も中小企業に勤めている人間であるので、自分の職場の発展を考えるとともに、参拝者の役にも立てたなら一石二鳥である。

 このように各科目は、私にとって興味の対象であるとともに必要なものでもある。ただ闇雲に知識を得てゆくのではなく、中小企業診断士というある要請に応えられるような知識のまとまりを得ることができるのも魅力的だ。趣味と実益を兼ねたものであると言える。

 また私の性格は前に出てトップを張るというよりも、2番手ぐらいで一番の人間を支え裏で操るようなポジションを好むタイプであるので、経営者にアドバイスをするような職種は向いているかもしれない。勉強の内容に興味があること、哲学にもつながること、実際の生活で役に立つこと、自分の性格にあっていること、そんな理由で中小企業診断士には興味を持っている。実際に資格が取れるまでにはどのくらいの期間がかかるかはわからないが、やってみようと思っている。

 将来の理想像は、経営に関する専門的な知識で神社や参拝者に貢献しつつ、経済的な安定を手にいれ、また学んだ知識を俯瞰し哲学的に学問や社会、人間の営みを深く探求していきたい。

令和7年3月11日

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